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unknownさん (89m1dhah)2022/3/24 14:49 (No.18142)削除「彼女のことが何よりも…」
妻のお墓、ここに来ると懐かしいことを思い出す…
社会人になってすぐのこと…審問官には「かっこいい!」という気持ちだけで入った。なんとか、入れたものの、後悔した。ものすごく辛かった。いくら、危害を加える魔女といえども、人の形をしているのだ…殺した事による罪悪感を覚える。
耐えられなかった、やめようかと、思った時に彼女に出会ったのだ。欲に抗い、1人の人間として生きようとしていた魔女…のちの妻に。彼女は開口一番に「大丈夫?」って聞いてきた。僕はその言葉を無視し、銃を突きつけようとした。その時、彼女は僕に近寄り、優しく頭を撫でて、僕に語りかけた。
「大丈夫、私はあなたを襲わないから…その銃を下ろして…」
僕はダメだとわかっていたが、銃を下ろしてしまった。もう、疲れたのだ。
「あなた、とてもかわいそう…心は限界なのに、我慢してる…そんなに、頑張ることないのに…」
僕は何故か涙が出てきた。疲れている事に気づいてくれるのが、何よりありがたかった。その後も、彼女との交流は増えていった。
彼女と出会ってからも、僕は審問官を続けるのだが、今までとは心の支えがあるところが違うため、疲れていても頑張ることができた。
それから、2年ほど経ってから、彼女と結婚した。控えめに言って、幸せだった。仕事の辛さは変わらない。しかし、街を守ると共に平和な彼女との生活も守ると考えると頑張れた。
だが、その幸せも長くは続かなかった。結婚して3年後、彼女は欲に抗えなくなってきた…
「幸成くん…私、もう…耐えられないかも…」
「そんな事ないさ!今まで頑張ってきただろう?努力しただろう?きっと、報われる…また、普通に生活できるさ!」
「そう、だね…もうちょっと、頑張ってみるよ!」
彼女は笑って答えた。その顔を見ると胸が締め付けられた。
「ねぇ、幸成くん…もしも、私が欲に抗えなくなったら…すぐに殺してほしいなぁ…」
「そんな、悲しいこと言わないでよ…」
「もしもの話だよ!ただ、そう思っただけで…」
彼女は目を下に向ける。
「私、この街が好きになってさ…魔女としてはこの街を壊さないと満たされないのにね…壊したくないの…だからさ、私をすぐに殺して欲しいの」
彼女の話を聞いて、それが幸せなら、叶えてあげよう…そう思った。
「わかった…そのときがきたら、やるよ」
「ありがとう、」
その後も平和に過ごすことができたが、日に日に、彼女の顔から笑顔が無くなっていき、仕事の花屋も休みがちになっていった。余裕が無くなってきたんだろうと僕でもわかった。そのうち、彼女の危険度もBに上がった。そんな、ある日の夜、ご飯を食べ終わったリビングで、彼女は僕にこう言った。
「幸成くん…もう…無理…耐えられない…一思いに…撃って…」
僕はスーツの内側から銃を取り出す。しかし、構えることは出来なかった。仕事には慣れてきた、しかし、魔女といえど、妻。そう簡単に撃つことなんてできない。構えることすらも…
「ねぇ…早く…して…お願い…もう、抗えない…」
僕は持っていた銃を構える。体が震える…涙も溢れる…息も荒くなってきた…決心がつかない…僕には撃てない…
「ねぇ…早く…お願い…」
彼女は悲しそうな目をこっちに向ける。苦しそうだった…まるで、5年前の僕のようだった…僕は彼女に助けてもらった…だから、今度は助けるんだ…そう思うと、決心がついた…そして、目を瞑ると銃の引き金に指を添えて…
バン!…バン!バン!バン!バン!バン!…
食器が片付いてないリビングに銃声が響く。目を開けると…彼女は倒れており、銃弾は6つとも当たったようだった。しかし、どれも急所は外れたようで、微かに、息があった。
「ありが…とう…殺して…くれるのね…」
「君が…救われる…なら…構わない…」
鼻を啜りながら答える。
「ありがとう…私は…あなたと会えて…幸せだったな…本当に…ありがとう…」
「うっ…うあぁあああああああああ!!」
僕は泣きながら、彼女を抱き上げた。すると彼女は、僕の頭を撫でてきた。出会った時のように優しく撫でてきた。
「僕もぉ!…し、幸せだったぁ!…いつまでも、愛してるよぉ!…」
泣いていて、カッコつかないのはわかっている。しかし、急に伝えたくなったのだ。幸せだったと、愛していると。
少し時間が経つと、気持ちが落ち着いた。抱いている彼女は冷たくなっていた。
10年たった今でも、思い出せる、自分の腕の上で寝ていた彼女の美しさを…
お墓に線香を上げ、バラも飾った。10秒ほど、手を合わせ立ち上がる。
「君が好きな、この街は今日も平和だよ…鳥は囀り、花も綺麗に咲いてるし…大きな事件も起きてないよ」
そこに彼女がいるかのように、お墓に語りかける。
彼女が好きなこの街は、僕が審問官として守る。彼女が好きだったから守る、ただそれだけ。
殺害する対象である魔女に彼女に似たようやつはいないか、探してしまう。また会えるかもしれない…そんな希望を持ってしまう。
僕の行動理念は心の奥にある彼女に対する欲望だ。彼女がいないことを信じられず、未だに依存し続ける。
人に危害を与えるわけではないが、僕は魔女となんら変わらない…いつもそう思う。
そんなことを考えながら、今日も彼女が好きな街を守る。
妻のお墓、ここに来ると懐かしいことを思い出す…
社会人になってすぐのこと…審問官には「かっこいい!」という気持ちだけで入った。なんとか、入れたものの、後悔した。ものすごく辛かった。いくら、危害を加える魔女といえども、人の形をしているのだ…殺した事による罪悪感を覚える。
耐えられなかった、やめようかと、思った時に彼女に出会ったのだ。欲に抗い、1人の人間として生きようとしていた魔女…のちの妻に。彼女は開口一番に「大丈夫?」って聞いてきた。僕はその言葉を無視し、銃を突きつけようとした。その時、彼女は僕に近寄り、優しく頭を撫でて、僕に語りかけた。
「大丈夫、私はあなたを襲わないから…その銃を下ろして…」
僕はダメだとわかっていたが、銃を下ろしてしまった。もう、疲れたのだ。
「あなた、とてもかわいそう…心は限界なのに、我慢してる…そんなに、頑張ることないのに…」
僕は何故か涙が出てきた。疲れている事に気づいてくれるのが、何よりありがたかった。その後も、彼女との交流は増えていった。
彼女と出会ってからも、僕は審問官を続けるのだが、今までとは心の支えがあるところが違うため、疲れていても頑張ることができた。
それから、2年ほど経ってから、彼女と結婚した。控えめに言って、幸せだった。仕事の辛さは変わらない。しかし、街を守ると共に平和な彼女との生活も守ると考えると頑張れた。
だが、その幸せも長くは続かなかった。結婚して3年後、彼女は欲に抗えなくなってきた…
「幸成くん…私、もう…耐えられないかも…」
「そんな事ないさ!今まで頑張ってきただろう?努力しただろう?きっと、報われる…また、普通に生活できるさ!」
「そう、だね…もうちょっと、頑張ってみるよ!」
彼女は笑って答えた。その顔を見ると胸が締め付けられた。
「ねぇ、幸成くん…もしも、私が欲に抗えなくなったら…すぐに殺してほしいなぁ…」
「そんな、悲しいこと言わないでよ…」
「もしもの話だよ!ただ、そう思っただけで…」
彼女は目を下に向ける。
「私、この街が好きになってさ…魔女としてはこの街を壊さないと満たされないのにね…壊したくないの…だからさ、私をすぐに殺して欲しいの」
彼女の話を聞いて、それが幸せなら、叶えてあげよう…そう思った。
「わかった…そのときがきたら、やるよ」
「ありがとう、」
その後も平和に過ごすことができたが、日に日に、彼女の顔から笑顔が無くなっていき、仕事の花屋も休みがちになっていった。余裕が無くなってきたんだろうと僕でもわかった。そのうち、彼女の危険度もBに上がった。そんな、ある日の夜、ご飯を食べ終わったリビングで、彼女は僕にこう言った。
「幸成くん…もう…無理…耐えられない…一思いに…撃って…」
僕はスーツの内側から銃を取り出す。しかし、構えることは出来なかった。仕事には慣れてきた、しかし、魔女といえど、妻。そう簡単に撃つことなんてできない。構えることすらも…
「ねぇ…早く…して…お願い…もう、抗えない…」
僕は持っていた銃を構える。体が震える…涙も溢れる…息も荒くなってきた…決心がつかない…僕には撃てない…
「ねぇ…早く…お願い…」
彼女は悲しそうな目をこっちに向ける。苦しそうだった…まるで、5年前の僕のようだった…僕は彼女に助けてもらった…だから、今度は助けるんだ…そう思うと、決心がついた…そして、目を瞑ると銃の引き金に指を添えて…
バン!…バン!バン!バン!バン!バン!…
食器が片付いてないリビングに銃声が響く。目を開けると…彼女は倒れており、銃弾は6つとも当たったようだった。しかし、どれも急所は外れたようで、微かに、息があった。
「ありが…とう…殺して…くれるのね…」
「君が…救われる…なら…構わない…」
鼻を啜りながら答える。
「ありがとう…私は…あなたと会えて…幸せだったな…本当に…ありがとう…」
「うっ…うあぁあああああああああ!!」
僕は泣きながら、彼女を抱き上げた。すると彼女は、僕の頭を撫でてきた。出会った時のように優しく撫でてきた。
「僕もぉ!…し、幸せだったぁ!…いつまでも、愛してるよぉ!…」
泣いていて、カッコつかないのはわかっている。しかし、急に伝えたくなったのだ。幸せだったと、愛していると。
少し時間が経つと、気持ちが落ち着いた。抱いている彼女は冷たくなっていた。
10年たった今でも、思い出せる、自分の腕の上で寝ていた彼女の美しさを…
お墓に線香を上げ、バラも飾った。10秒ほど、手を合わせ立ち上がる。
「君が好きな、この街は今日も平和だよ…鳥は囀り、花も綺麗に咲いてるし…大きな事件も起きてないよ」
そこに彼女がいるかのように、お墓に語りかける。
彼女が好きなこの街は、僕が審問官として守る。彼女が好きだったから守る、ただそれだけ。
殺害する対象である魔女に彼女に似たようやつはいないか、探してしまう。また会えるかもしれない…そんな希望を持ってしまう。
僕の行動理念は心の奥にある彼女に対する欲望だ。彼女がいないことを信じられず、未だに依存し続ける。
人に危害を与えるわけではないが、僕は魔女となんら変わらない…いつもそう思う。
そんなことを考えながら、今日も彼女が好きな街を守る。
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Lさん (89ldsvg4)2022/3/23 05:28 (No.17993)削除
死んでも離れない
これは一人の愛された少年と、一人を愛した魔女のお話。
今から少し前、少年は一人の少女と仲が良かった。何をするにしても2人一緒で、とても仲が良かった。そんな少女は少女に秘密を打ち明けようとしていた。
「愛、ビックリする事言っていい?」
「どうしたの?」
「私、魔女なの」
「魔女?何それ」
少年は初めて聞いた単語に首を傾げた。少年は黙って少女の話を頷きながら話を聞いた。魔女について、審問官や魔法について。
「……という訳なの、私の本当の名前はアイビーって言うの。驚いた?……と言うか、怖い……よね?」
「僕が君を嫌いになる訳無いじゃないか!それに僕はまだ魔女が何なのかよくわかってないけど……欲望に抗えてるなんて凄いよ?人に言わない方が良いんだろうけど僕は気にしない。だからこれからもよろしくね?アイビー。」
「……うん!」
愛は笑顔で魔女を受け入れた。魔女だろうと何だろうと大切な友人だ。そう思っていた。魔女は嬉しかった。魔女だと明かしても受け入れて貰えて心底嬉しかった。月日が経ち、魔女は愛に想いを寄せるようになった。そして魔女は愛を自分の物にしたい。誰にも取られたくない。段々欲望が抑え切れなくなっていた。愛に触れる者全てに怒りを覚えるようになった。愛と話す者全てに嫌気が差した。
何処にも行かないように捕まえて自分の物にしたい。
遂に魔女は手を出した。愛と話していた人間の友人を殺してしまった。魔女は気づいた。愛に関わった者を殺してしまえば愛は自分の物にできると。
「アイビー……?何をしてるの……?」
「見ての通りだよ。ごめんね?愛と話しているのが許せなくって……愛を取られたくなくて……だって私の愛だもん。友達は死んじゃったけど大丈夫。私が居るから。」
「ッ……!」
愛は逃げ出した。何も考えずに逃げ続けた。初めて魔女と呼ばれる存在に恐怖を感じた。愛は運良く魔女から逃げ切った。何とかしないと新たな犠牲者が出る。自分が止めなきゃいけない。そこで愛は魔女から聞いた審問官の存在を思い出した。魔女は欲望に耐えられなかった。人を殺してしまった。そうなるともう……殺すしか無い。愛は覚悟を決めた。自分の手で魔女を殺すと覚悟を決めた。
愛は審問官となり、恐ろしい速度で順位を上げていった。愛には審問官としての才能があった。愛にとっては好都合だった。自分ならあの魔女を止めれる。あの魔女を殺せる。そう思えた。
審問官になって数ヶ月。愛は魔女との再会を果たした。
「久しぶり、アイビー」
「愛……?今まで何していたの?」
あの時の恐怖が蘇る。そして今からでも前みたいに戻れるんじゃないかと思った。戻りたかった。殺したくない。鎌を握り締め、愛は
「……アイビーを止めようとしてた。」
「私を?どうして。」
「僕はアイビーの物でもいい。でも人を殺すのは間違ってる。」
「どうして?私は愛がいれば何でもいいのよ。愛がそばに居てくれれば。でも愛は私だけを見なきゃダメ。他の人も私の愛を見るのはダメ、許せない。」
魔女を見て愛は思った。もう前には戻れないと。アイビーは今ここで殺さなきゃいけない、殺すしかないと思った。
「アイビー、僕と勝負をしよう。アイビーが勝ったら僕はアイビーの物だ。」
「ホントに!?じゃあ……本気で行くよ……私の愛私の愛私の愛私の愛私の愛私の愛私の愛……」
勝負は一瞬だった。立っていたのは愛だった。自分の大事な友人とはもうここでお別れだ。まだ魔女は生きている。殺さなきゃいけない。トドメを刺さなきゃいけない。鎌を振りかぶると魔女が口を開いた。
「愛……私の事嫌いになっちゃった?」
「……嫌いになんてならないよ。僕はアイビーの事……殺したくない。確かにアイビーは酷いことをしたけど……大事な友達なんだ。」
愛は大粒の涙を流して魔女の問い掛けに答えた。やっぱり殺したくない。アイビーは大事な友達なんだ。でも放っておいたらまた誰かを殺すかもしれない。
「私、愛になら殺されてもいいよ。」
「……えっ?」
「……迷惑かけてごめんね。友達も殺しちゃったし沢山人も殺しちゃった。でもきっとこれからも殺すと思う。誰になんて言われても私、愛を自分だけの物にしたいの。それを止めたいなら今ここで殺して。」
「アイビー……僕の事、好きになってくれてありがとう。」
「愛、ずっと一緒だよ。死んでも離さない。」
愛は魔女の首を刎ねた。そして愛はほんの少しの可能性に賭けた。魔女の亡骸から心臓を取り出した。魔女の望んだ形では無いが、一緒にいてやりたいと思った。愛は魔女の心臓を持ち帰った。
後日、愛に専用魔具が出来た。魔女の心臓を埋め込んだ大鎌だ。愛は大鎌に話し掛けるように呟いた。
「アイビー、君は僕に酷い事をしたんだ。勿論タダでは許さない。これから僕と一緒に戦って、僕に力を貸して。無かったことにはしないけど許してあげる。」
後日、愛は十席にまで上り詰めた。きっと愛一人の力ではここまで上に来る事は出来なかっただろう。
魔女は本当に愛から
死んでも離れない。
これは一人の愛された少年と、一人を愛した魔女のお話。
今から少し前、少年は一人の少女と仲が良かった。何をするにしても2人一緒で、とても仲が良かった。そんな少女は少女に秘密を打ち明けようとしていた。
「愛、ビックリする事言っていい?」
「どうしたの?」
「私、魔女なの」
「魔女?何それ」
少年は初めて聞いた単語に首を傾げた。少年は黙って少女の話を頷きながら話を聞いた。魔女について、審問官や魔法について。
「……という訳なの、私の本当の名前はアイビーって言うの。驚いた?……と言うか、怖い……よね?」
「僕が君を嫌いになる訳無いじゃないか!それに僕はまだ魔女が何なのかよくわかってないけど……欲望に抗えてるなんて凄いよ?人に言わない方が良いんだろうけど僕は気にしない。だからこれからもよろしくね?アイビー。」
「……うん!」
愛は笑顔で魔女を受け入れた。魔女だろうと何だろうと大切な友人だ。そう思っていた。魔女は嬉しかった。魔女だと明かしても受け入れて貰えて心底嬉しかった。月日が経ち、魔女は愛に想いを寄せるようになった。そして魔女は愛を自分の物にしたい。誰にも取られたくない。段々欲望が抑え切れなくなっていた。愛に触れる者全てに怒りを覚えるようになった。愛と話す者全てに嫌気が差した。
何処にも行かないように捕まえて自分の物にしたい。
遂に魔女は手を出した。愛と話していた人間の友人を殺してしまった。魔女は気づいた。愛に関わった者を殺してしまえば愛は自分の物にできると。
「アイビー……?何をしてるの……?」
「見ての通りだよ。ごめんね?愛と話しているのが許せなくって……愛を取られたくなくて……だって私の愛だもん。友達は死んじゃったけど大丈夫。私が居るから。」
「ッ……!」
愛は逃げ出した。何も考えずに逃げ続けた。初めて魔女と呼ばれる存在に恐怖を感じた。愛は運良く魔女から逃げ切った。何とかしないと新たな犠牲者が出る。自分が止めなきゃいけない。そこで愛は魔女から聞いた審問官の存在を思い出した。魔女は欲望に耐えられなかった。人を殺してしまった。そうなるともう……殺すしか無い。愛は覚悟を決めた。自分の手で魔女を殺すと覚悟を決めた。
愛は審問官となり、恐ろしい速度で順位を上げていった。愛には審問官としての才能があった。愛にとっては好都合だった。自分ならあの魔女を止めれる。あの魔女を殺せる。そう思えた。
審問官になって数ヶ月。愛は魔女との再会を果たした。
「久しぶり、アイビー」
「愛……?今まで何していたの?」
あの時の恐怖が蘇る。そして今からでも前みたいに戻れるんじゃないかと思った。戻りたかった。殺したくない。鎌を握り締め、愛は
「……アイビーを止めようとしてた。」
「私を?どうして。」
「僕はアイビーの物でもいい。でも人を殺すのは間違ってる。」
「どうして?私は愛がいれば何でもいいのよ。愛がそばに居てくれれば。でも愛は私だけを見なきゃダメ。他の人も私の愛を見るのはダメ、許せない。」
魔女を見て愛は思った。もう前には戻れないと。アイビーは今ここで殺さなきゃいけない、殺すしかないと思った。
「アイビー、僕と勝負をしよう。アイビーが勝ったら僕はアイビーの物だ。」
「ホントに!?じゃあ……本気で行くよ……私の愛私の愛私の愛私の愛私の愛私の愛私の愛……」
勝負は一瞬だった。立っていたのは愛だった。自分の大事な友人とはもうここでお別れだ。まだ魔女は生きている。殺さなきゃいけない。トドメを刺さなきゃいけない。鎌を振りかぶると魔女が口を開いた。
「愛……私の事嫌いになっちゃった?」
「……嫌いになんてならないよ。僕はアイビーの事……殺したくない。確かにアイビーは酷いことをしたけど……大事な友達なんだ。」
愛は大粒の涙を流して魔女の問い掛けに答えた。やっぱり殺したくない。アイビーは大事な友達なんだ。でも放っておいたらまた誰かを殺すかもしれない。
「私、愛になら殺されてもいいよ。」
「……えっ?」
「……迷惑かけてごめんね。友達も殺しちゃったし沢山人も殺しちゃった。でもきっとこれからも殺すと思う。誰になんて言われても私、愛を自分だけの物にしたいの。それを止めたいなら今ここで殺して。」
「アイビー……僕の事、好きになってくれてありがとう。」
「愛、ずっと一緒だよ。死んでも離さない。」
愛は魔女の首を刎ねた。そして愛はほんの少しの可能性に賭けた。魔女の亡骸から心臓を取り出した。魔女の望んだ形では無いが、一緒にいてやりたいと思った。愛は魔女の心臓を持ち帰った。
後日、愛に専用魔具が出来た。魔女の心臓を埋め込んだ大鎌だ。愛は大鎌に話し掛けるように呟いた。
「アイビー、君は僕に酷い事をしたんだ。勿論タダでは許さない。これから僕と一緒に戦って、僕に力を貸して。無かったことにはしないけど許してあげる。」
後日、愛は十席にまで上り詰めた。きっと愛一人の力ではここまで上に来る事は出来なかっただろう。
魔女は本当に愛から
死んでも離れない。
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スピネルさん (89j754pp)2022/3/21 23:43 (No.17824)削除
『Rainy Gray』
朝から美しい青色を覆っていた、何時崩れてもおかしくなかった鈍色の雲は遂に決壊して雨水を吐き出していく。
鬱屈とした大気を生みだしながらさる音楽家が曲の発想を得たとする大粒の雨音を搔き消すように、一発の銃声が路地裏に鳴り響いた。
「…………良かった、ちゃんと殺せてる。」
後頭部に銃弾を食らって成す術も無く倒れ込んだ魔女を暫くの間注意深く観察して__その息の根が止まっている事を確認出来ると、張りつめていた空気がようやく和らいで小さく安堵の息をつく。
危険度Bの魔女である少女が教会からの妨害で自らの欲望を刺激され、誰もいない路地裏まで追い詰められて逃亡を続けようとしていた所を一発。完全に不意打ちを食らった魔女はその命を奪われた相手に対して恨嗟の声さえ発せられずに、転ぶようにアスファルトの地面と衝突してそのまま濁った赤色の水溜まりを広げていく。
奇襲を前提とした討伐であった為、わざわざこんな雨が降りしきる日を狙って行う必要は無かったが何時雨が降るかなんて予言者でも無いのだから分かるはずも無く、まあ目撃者を減らすという意味では利点であったので良しとしよう。
そう1人で納得しているとピクリ、とうつ伏せになっていた魔女の指が僅かながら動いたようなに見えた。直ぐ様警戒して銃を向けるがどうやら自分の錯覚だったらしく、雨に晒されている遺体は沈黙を貫いている。
「……君も可哀想だよね。」
こうやってわざわざしゃがみこんで薄っぺらい哀れみの言葉をかけても、当然ながら何か返答が来る訳でも無い。いいや、そもそもそんなものは最初から期待していない。
いくら自分達と同じ人であると主張しても、基本人間と魔女は互いに合い知れない存在である事には変わりない。
そのような者達に同情や憐憫をしてしまえば、足をすくわれるのは此方の方だという事は多くの事例が証明している。
生まれた事が罪、とは流石に言いすぎではあるがそう言われても仕方の無い行いを彼女達が行っているのは事実。そうでなければ教会なんていう魔女狩りを行う組織は結成されておらず、審問官という存在は生まれてはいない筈だ。
流石に自分は魔女を容赦なく滅ぼせなんていう過激な思想は抱いてはいないが、かといって魔女の事を慮って多少討伐を躊躇するような軟弱な精神は持ち合わせていない。いくら”彼女”でないと十分理解していても魔女と呼ばれる同族に対して嫌悪感は抱くし、文句や恨み言を言いたくもなる。
『__________。』
「…あのさ、いい加減黙ってくれないかな。」
ああ、また”彼女”の声が聴こえる。両手で数えきれない程の死体を生み、誰もが恐怖し、その死を喜ばれた魔女は肉体を失って亡霊になって彷徨う事でますます此方に干渉してくる。
分かっている。これは自身の幻聴である事は。しかしながらこうやって彼女を謀殺した事を咎めるように、彼女の死体を使って魔女を殺めると度々その声は聴こえてくるのだ。
「そうだ。報告書、書かないと。」
隠密行動であった事から誰もこの場に現れない事を良い事に、しばらく魔女の遺体を見つめながら少しばかり考え事をしていたが今のような未練がましい雑念を振り払って、本来の目的を思い出して立ち上がる。
もう随分雨の中にいたせいですっかり水を吸収していく服が重みを持ち始め、体温が容赦なく奪われてしまっている。とは言っても息を吐くだけで肺が凍りそうになる寒気がないだけ快適で、こうやって傘もささずに豪雨の中過ごしていても服や髪を乾かすのが大変そうだなと思う程度にしか気にしてはいない。
立ち去る前に魔女を討伐出来たと簡単に本部に一報を入れて、最後に彼女を一瞥する。
勿論自分のせいで死んだ魔女に対して思う所は無い。言葉だけの謝罪を贈ってもきっと彼女もそんな事は侮辱であると思っているし、わざわざそのような事が出来る程優しい人間ではなんかじゃない。
彼女が自分を許さないと思うように、僕も魔女という存在を許すつもりなんて微塵も無い。
もし自らを悔い改めることなく誰かを恨む事でしか自身を癒せないのならば、手を下した審問官ではなく何処かに運命の女神って奴を恨んで欲しいものだ。
朝から美しい青色を覆っていた、何時崩れてもおかしくなかった鈍色の雲は遂に決壊して雨水を吐き出していく。
鬱屈とした大気を生みだしながらさる音楽家が曲の発想を得たとする大粒の雨音を搔き消すように、一発の銃声が路地裏に鳴り響いた。
「…………良かった、ちゃんと殺せてる。」
後頭部に銃弾を食らって成す術も無く倒れ込んだ魔女を暫くの間注意深く観察して__その息の根が止まっている事を確認出来ると、張りつめていた空気がようやく和らいで小さく安堵の息をつく。
危険度Bの魔女である少女が教会からの妨害で自らの欲望を刺激され、誰もいない路地裏まで追い詰められて逃亡を続けようとしていた所を一発。完全に不意打ちを食らった魔女はその命を奪われた相手に対して恨嗟の声さえ発せられずに、転ぶようにアスファルトの地面と衝突してそのまま濁った赤色の水溜まりを広げていく。
奇襲を前提とした討伐であった為、わざわざこんな雨が降りしきる日を狙って行う必要は無かったが何時雨が降るかなんて予言者でも無いのだから分かるはずも無く、まあ目撃者を減らすという意味では利点であったので良しとしよう。
そう1人で納得しているとピクリ、とうつ伏せになっていた魔女の指が僅かながら動いたようなに見えた。直ぐ様警戒して銃を向けるがどうやら自分の錯覚だったらしく、雨に晒されている遺体は沈黙を貫いている。
「……君も可哀想だよね。」
こうやってわざわざしゃがみこんで薄っぺらい哀れみの言葉をかけても、当然ながら何か返答が来る訳でも無い。いいや、そもそもそんなものは最初から期待していない。
いくら自分達と同じ人であると主張しても、基本人間と魔女は互いに合い知れない存在である事には変わりない。
そのような者達に同情や憐憫をしてしまえば、足をすくわれるのは此方の方だという事は多くの事例が証明している。
生まれた事が罪、とは流石に言いすぎではあるがそう言われても仕方の無い行いを彼女達が行っているのは事実。そうでなければ教会なんていう魔女狩りを行う組織は結成されておらず、審問官という存在は生まれてはいない筈だ。
流石に自分は魔女を容赦なく滅ぼせなんていう過激な思想は抱いてはいないが、かといって魔女の事を慮って多少討伐を躊躇するような軟弱な精神は持ち合わせていない。いくら”彼女”でないと十分理解していても魔女と呼ばれる同族に対して嫌悪感は抱くし、文句や恨み言を言いたくもなる。
『__________。』
「…あのさ、いい加減黙ってくれないかな。」
ああ、また”彼女”の声が聴こえる。両手で数えきれない程の死体を生み、誰もが恐怖し、その死を喜ばれた魔女は肉体を失って亡霊になって彷徨う事でますます此方に干渉してくる。
分かっている。これは自身の幻聴である事は。しかしながらこうやって彼女を謀殺した事を咎めるように、彼女の死体を使って魔女を殺めると度々その声は聴こえてくるのだ。
「そうだ。報告書、書かないと。」
隠密行動であった事から誰もこの場に現れない事を良い事に、しばらく魔女の遺体を見つめながら少しばかり考え事をしていたが今のような未練がましい雑念を振り払って、本来の目的を思い出して立ち上がる。
もう随分雨の中にいたせいですっかり水を吸収していく服が重みを持ち始め、体温が容赦なく奪われてしまっている。とは言っても息を吐くだけで肺が凍りそうになる寒気がないだけ快適で、こうやって傘もささずに豪雨の中過ごしていても服や髪を乾かすのが大変そうだなと思う程度にしか気にしてはいない。
立ち去る前に魔女を討伐出来たと簡単に本部に一報を入れて、最後に彼女を一瞥する。
勿論自分のせいで死んだ魔女に対して思う所は無い。言葉だけの謝罪を贈ってもきっと彼女もそんな事は侮辱であると思っているし、わざわざそのような事が出来る程優しい人間ではなんかじゃない。
彼女が自分を許さないと思うように、僕も魔女という存在を許すつもりなんて微塵も無い。
もし自らを悔い改めることなく誰かを恨む事でしか自身を癒せないのならば、手を下した審問官ではなく何処かに運命の女神って奴を恨んで欲しいものだ。
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音
音さん (89gqtrqg)2022/3/21 20:57 (No.17808)削除「______店の新作タルトタタン」
タルトタタンは失敗から偶然生まれたケーキである。
失敗というものは誰もが恐怖を抱く。それは私も例外では無い。その為「失敗したくない」など「失敗」に関する願いが多い。だからこのタルトタタンも「失敗」をイメージして作った。
しかし失敗と言ってもお客様には完璧に完成したケーキのみを食べて頂きたいっという気持ちがある。その為試作品を提供する事は無い。もちろんこの試作のケーキも自分1人で食べる。
試作品を食べる為にフォークやお皿などを用意する。そして、ケーキをお皿に移したり紅茶を用意する。
「美味しい………今回は1回で上手くいくとは思わなかったわ……」っと自分の出来に感心しつつ、ケーキを1人で食べ始める。私は食べれば食べるほど欲に溺れる。だから食べる事をやめられない。そうして、今日も魔力量を高める。
「何故欲に溺れるのか………私の答えは欲に素直なだけですよ…………」っと紅茶を飲み口直しをしながら自問自答する。昔人間に質問された事を思い出しながら自分の答えを答え、
「人間も欲に素直に従えば苦しむ事なく苦しく無いのよ……」と嫌味の様に言う。
そうしてお客様が来ない時間を優雅に過ごす。
タルトタタンは失敗から偶然生まれたケーキである。
失敗というものは誰もが恐怖を抱く。それは私も例外では無い。その為「失敗したくない」など「失敗」に関する願いが多い。だからこのタルトタタンも「失敗」をイメージして作った。
しかし失敗と言ってもお客様には完璧に完成したケーキのみを食べて頂きたいっという気持ちがある。その為試作品を提供する事は無い。もちろんこの試作のケーキも自分1人で食べる。
試作品を食べる為にフォークやお皿などを用意する。そして、ケーキをお皿に移したり紅茶を用意する。
「美味しい………今回は1回で上手くいくとは思わなかったわ……」っと自分の出来に感心しつつ、ケーキを1人で食べ始める。私は食べれば食べるほど欲に溺れる。だから食べる事をやめられない。そうして、今日も魔力量を高める。
「何故欲に溺れるのか………私の答えは欲に素直なだけですよ…………」っと紅茶を飲み口直しをしながら自問自答する。昔人間に質問された事を思い出しながら自分の答えを答え、
「人間も欲に素直に従えば苦しむ事なく苦しく無いのよ……」と嫌味の様に言う。
そうしてお客様が来ない時間を優雅に過ごす。
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お
お米さん (89jdd7kd)2022/3/19 19:05 (No.17581)削除『平凡、されど不屈』
ヒーローってのに、憧れた。
テレビで見るヒーローってのは、世界を守るため、大切な誰かを守るために、どんな時も立ち上がる。
彼ら自身、悩むこともあり、迷う事もある。
それでも最後は絶対に戦うことを選ぶんだ。
そんなヒーローに俺たちは守られてるって、子供の頃は本気で思ってた。
将来はヒーローに、そんな叶いっこない夢を掲げちまったのが運の尽き。
──死体が転がってた。
20歳、初めて魔女を殺した。
高校を卒業して審問官になり、強くなる為に様々なことをした。
対魔女用の特殊訓練を受け、剣術を指南してくれる道場に通い、兵法書などで戦術を学んだ。
頭の中では完璧だった。自分が魔女を倒す姿が簡単に想像出来てた。
だが、俺の頭の中は今の今までずっとお花畑だったことを知った。
必殺技なんてなくって、土壇場で覚醒することなんてない。
魔女もやられたとしても爆発四散することなんてない。死体がそこに転がるだけだ。
ただ、戦場の現実を目の当たりにした。
俺たち審問官を殺そうとする魔女、それを事務的に抵抗する手段を刈り取りながら戦う審問官。
理不尽に理不尽を重ねたような地獄だと感じた。
その日以来、俺は生き残りたいと強く思うようになった。
幸い、剣術は体に染み付き始めていたので攻撃を受け流すくらいは出来た。
だが、相手は魔女だ。
俺達にはない不思議な力で苦しめてくる。
それでも、姿は一丁前に俺らに似た姿をしてるもんだから殺し難いことこの上ない。
死にたくない、もう辞めたい。
俺はなんでこんな仕事を選んでしまったのかと、何度も何度も悔やんだ。
今更、もう辞められない。
普通の人生を送ろうとするには学が無さすぎた。
自分を産んでくれた今は亡き母や、育ててくれた父に罪悪感が募る。
果たしてこんなことをしてていのか…
もっとやるべき事があるんじゃないか。
そう思う程に、俺は憔悴していった。
──そうして仕事を始めて2年、俺は魔女を狩れなくなった。
しばらくの間、休みを貰った。
給料は入らないが、この2年間殆ど金を使わなかったので貯金はあった。
魔具も本来なら返却すべきで返さないと始末書ものだったのだが、俺はこっそり刀の魔具を持ち出してしまった。
…所謂魔が差してしまったわけだ。
休むと言っているのに持ち出してしまったのは、意識がまだ仕事に取り残されてしまってるからなのか。
実家に帰って親父と話したり、特に目的もなく散歩したり。
親父はそんな俺を暖かく迎えてくれた。何も聞かないで、ただおつかれさんと言ってくれたのがありがたかった。
特に何をする訳でもなく、ぼんやりとした生活を送った。
死闘に身を投げ続けるのが疲れたんだろう。
そんなゆっくりとした日々が、その時の俺には懐かしく感じていた。
ある日の事。俺はコンビニで適当におにぎりを買ってフェンスに腰掛け思案にふけていた。
このまま、辞めてしまおうか。
バイトでも何でもすれば、俺1人暮らす分には問題なく稼げるだろう。
態々己の身を危険に晒してまで、金を稼ぐこともない。
そんな風に自分に言い聞かせようとしても、心の奥底で何かが辞めるなって声を上げる。
もう十分だろ、2年だぞ。もう2年もしんどい思いをしてるんだぞ。
引き返すなら今のうちだ。
やめるな、お前にはまだ…
悲鳴が聞こえる。
気付いた時には走り出していた。
現場は近かった。周りには誰もいない。
小学生くらいの男の子が魔女に襲われていた。
手持ちのもの、助ける理由、俺が行く必要性。
それら全てを置き去りにして、俺は、
「その手を離しやがれ!!!このアマァ!!!」
結局、少年は助かった。
俺が魔具を起動して魔女と交戦、時間を稼いだ結果、審問官が到着して無事討伐されたわけである。
俺は肋が4、5本。左足の複雑骨折、内蔵軽微の損傷で奇跡的に一命を取り留めた。
この時本当になんで生きてるか分からなかったけど、まあ俺の体が丈夫だったからということにしておこう。医者にもそう言われた。
ちなみに勝手に魔具を持ち出して戦闘を行ったので始末書を書く羽目になった。
まあ俺が悪いから仕方が無いのではあるが。
入院生活が始まって、何かすることも無く、黙って外を眺めながら療養していたら、不意に病室に誰かが訪ねてきた。
それは、1人の少年だった。
魔女に襲われていた少年であったのだ。
母親と一緒にお礼を言いに来たらしい。
助けてくれてありがとうございます、貴方が来てくれなければどうなっていたか…そんな風に親の方からは言われた。
そっちに関してはあんまり何を言われたか覚えてない。
ただ、彼に言われたことは今でも鮮明に覚えている。
「かっこよかったよ!兄ちゃん、ヒーローみたいだった!」
その後、少年はちゃんとお礼を言いなさいなんて親に叱られてたっけ。
それでも、俺はその言葉が、涙が出そうなくらいに嬉しかった。
思い出した、俺は、
「ヒーローに、なりたかったんだ」
あれから20年。流石にあの時に負った怪我は治って、今では俺も十席に名を連ねる男になった。
親父は逝っちまったし、そろそろ体を動かすのもしんどくなってきたけど。
あの日の言葉を胸に、今日も今日とて誰かを助けてる。
お人好し?偽善?大いに結構、なんとでも言えばいい。
それで誰かが助かるなら、これ以上の喜びはない。
40超えた今でも見てる、青臭くて小っ恥ずかしい夢。
拗らせたおっさんは今でも、
──英雄になりたくてしょうがない。
ヒーローってのに、憧れた。
テレビで見るヒーローってのは、世界を守るため、大切な誰かを守るために、どんな時も立ち上がる。
彼ら自身、悩むこともあり、迷う事もある。
それでも最後は絶対に戦うことを選ぶんだ。
そんなヒーローに俺たちは守られてるって、子供の頃は本気で思ってた。
将来はヒーローに、そんな叶いっこない夢を掲げちまったのが運の尽き。
──死体が転がってた。
20歳、初めて魔女を殺した。
高校を卒業して審問官になり、強くなる為に様々なことをした。
対魔女用の特殊訓練を受け、剣術を指南してくれる道場に通い、兵法書などで戦術を学んだ。
頭の中では完璧だった。自分が魔女を倒す姿が簡単に想像出来てた。
だが、俺の頭の中は今の今までずっとお花畑だったことを知った。
必殺技なんてなくって、土壇場で覚醒することなんてない。
魔女もやられたとしても爆発四散することなんてない。死体がそこに転がるだけだ。
ただ、戦場の現実を目の当たりにした。
俺たち審問官を殺そうとする魔女、それを事務的に抵抗する手段を刈り取りながら戦う審問官。
理不尽に理不尽を重ねたような地獄だと感じた。
その日以来、俺は生き残りたいと強く思うようになった。
幸い、剣術は体に染み付き始めていたので攻撃を受け流すくらいは出来た。
だが、相手は魔女だ。
俺達にはない不思議な力で苦しめてくる。
それでも、姿は一丁前に俺らに似た姿をしてるもんだから殺し難いことこの上ない。
死にたくない、もう辞めたい。
俺はなんでこんな仕事を選んでしまったのかと、何度も何度も悔やんだ。
今更、もう辞められない。
普通の人生を送ろうとするには学が無さすぎた。
自分を産んでくれた今は亡き母や、育ててくれた父に罪悪感が募る。
果たしてこんなことをしてていのか…
もっとやるべき事があるんじゃないか。
そう思う程に、俺は憔悴していった。
──そうして仕事を始めて2年、俺は魔女を狩れなくなった。
しばらくの間、休みを貰った。
給料は入らないが、この2年間殆ど金を使わなかったので貯金はあった。
魔具も本来なら返却すべきで返さないと始末書ものだったのだが、俺はこっそり刀の魔具を持ち出してしまった。
…所謂魔が差してしまったわけだ。
休むと言っているのに持ち出してしまったのは、意識がまだ仕事に取り残されてしまってるからなのか。
実家に帰って親父と話したり、特に目的もなく散歩したり。
親父はそんな俺を暖かく迎えてくれた。何も聞かないで、ただおつかれさんと言ってくれたのがありがたかった。
特に何をする訳でもなく、ぼんやりとした生活を送った。
死闘に身を投げ続けるのが疲れたんだろう。
そんなゆっくりとした日々が、その時の俺には懐かしく感じていた。
ある日の事。俺はコンビニで適当におにぎりを買ってフェンスに腰掛け思案にふけていた。
このまま、辞めてしまおうか。
バイトでも何でもすれば、俺1人暮らす分には問題なく稼げるだろう。
態々己の身を危険に晒してまで、金を稼ぐこともない。
そんな風に自分に言い聞かせようとしても、心の奥底で何かが辞めるなって声を上げる。
もう十分だろ、2年だぞ。もう2年もしんどい思いをしてるんだぞ。
引き返すなら今のうちだ。
やめるな、お前にはまだ…
悲鳴が聞こえる。
気付いた時には走り出していた。
現場は近かった。周りには誰もいない。
小学生くらいの男の子が魔女に襲われていた。
手持ちのもの、助ける理由、俺が行く必要性。
それら全てを置き去りにして、俺は、
「その手を離しやがれ!!!このアマァ!!!」
結局、少年は助かった。
俺が魔具を起動して魔女と交戦、時間を稼いだ結果、審問官が到着して無事討伐されたわけである。
俺は肋が4、5本。左足の複雑骨折、内蔵軽微の損傷で奇跡的に一命を取り留めた。
この時本当になんで生きてるか分からなかったけど、まあ俺の体が丈夫だったからということにしておこう。医者にもそう言われた。
ちなみに勝手に魔具を持ち出して戦闘を行ったので始末書を書く羽目になった。
まあ俺が悪いから仕方が無いのではあるが。
入院生活が始まって、何かすることも無く、黙って外を眺めながら療養していたら、不意に病室に誰かが訪ねてきた。
それは、1人の少年だった。
魔女に襲われていた少年であったのだ。
母親と一緒にお礼を言いに来たらしい。
助けてくれてありがとうございます、貴方が来てくれなければどうなっていたか…そんな風に親の方からは言われた。
そっちに関してはあんまり何を言われたか覚えてない。
ただ、彼に言われたことは今でも鮮明に覚えている。
「かっこよかったよ!兄ちゃん、ヒーローみたいだった!」
その後、少年はちゃんとお礼を言いなさいなんて親に叱られてたっけ。
それでも、俺はその言葉が、涙が出そうなくらいに嬉しかった。
思い出した、俺は、
「ヒーローに、なりたかったんだ」
あれから20年。流石にあの時に負った怪我は治って、今では俺も十席に名を連ねる男になった。
親父は逝っちまったし、そろそろ体を動かすのもしんどくなってきたけど。
あの日の言葉を胸に、今日も今日とて誰かを助けてる。
お人好し?偽善?大いに結構、なんとでも言えばいい。
それで誰かが助かるなら、これ以上の喜びはない。
40超えた今でも見てる、青臭くて小っ恥ずかしい夢。
拗らせたおっさんは今でも、
──英雄になりたくてしょうがない。
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かごめさん (89cwn8p1)2022/3/16 20:09 (No.17234)削除
研究報告書
著者Dr.Liz
魔女の誕生調査について
審問官◾︎◾︎◾︎によって現在◾︎◾︎県のセクター05に捕縛されている複数魔女への聞きこみ調査を行った。まず人からは生まれていないことは先の研究報告書に書いた通り明確であろう。魔女同士の交配の事例も確認されていない。そのため対象に生まれた時の状況を質問したところ、回答した魔女はそろって「気づいたら生まれていた」と返している。場所や周りの状態も様々で共通していることはただそれだけであった。その時に周りに別の魔女がいたという事例もないが、回答者が捕縛できている魔女のうちの30%ほどでしか無かったため、調査を進めればいずれ魔女が生まれる瞬間を見たものが現れるかもしれない。
今のところは気がつけばそこらのどこかに現れる相当厄介なお相手と思われる。君たちが目指す魔女撲滅は現状実現不可能と予測される。
別件の◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎実験は順調に進んでいるので、先にそちらを進展させるとするよ。
著者Dr.Liz
魔女の誕生調査について
審問官◾︎◾︎◾︎によって現在◾︎◾︎県のセクター05に捕縛されている複数魔女への聞きこみ調査を行った。まず人からは生まれていないことは先の研究報告書に書いた通り明確であろう。魔女同士の交配の事例も確認されていない。そのため対象に生まれた時の状況を質問したところ、回答した魔女はそろって「気づいたら生まれていた」と返している。場所や周りの状態も様々で共通していることはただそれだけであった。その時に周りに別の魔女がいたという事例もないが、回答者が捕縛できている魔女のうちの30%ほどでしか無かったため、調査を進めればいずれ魔女が生まれる瞬間を見たものが現れるかもしれない。
今のところは気がつけばそこらのどこかに現れる相当厄介なお相手と思われる。君たちが目指す魔女撲滅は現状実現不可能と予測される。
別件の◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎実験は順調に進んでいるので、先にそちらを進展させるとするよ。
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